#落語 #借金 #カンニング竹山#とろサーモン「これが芸人だ!」「借金指南役」
@落語 #借金 #カンニング竹山#とろサーモン「これが芸人だ!」「借金指南役」
「これが芸人だ!」
えー、わたしね、若い頃ってのはもう、何やったって面白いと思えるんですよ。いや、面白いっつーか、バカなんですよね。で、今回のお話は、ある芸人の若い頃のこと。名前は……まあ、竹で山な人だと思ってください。名前出すといろいろうるさい世の中ですから。ま、バレバレだけど。
で、この人ね、二十代の十年間、まったく稼ぎがない。「自称芸人」。つまり、免許証に「芸人」って書いてないからね。芸人ってのは売れてから呼ばれるもんで、売れる前はただの暇人。で、本人は「これが芸人だ!」と思い込んでる。いや、こういう勘違いが芸の芽をつぶすんですけどね。
で、ある日、相方がバイクで事故っちゃって、示談金50万円が必要になる。「50万」って言ったら、芸人の世界じゃ大金ですよ。売れない頃の50万なんて、富士山登ったら五合目で出てくる100円自販機ぐらい高い。で、相方も悩むわけです。そしたら三日後に「解決した!」って帰ってきた。
「どうやったの?」って聞いたら、スポーツ新聞を開いて、消費者金融の広告を指さすんだ。「試しに行ったら、50万すぐ借りられた!」って。それも一社だけじゃない。「まさかと思ってこっちも行ったら借りられた! さらにもう一社行ったらまた借りられた!」って、すでにこの時点でギャンブラーの三連単みたいな勢いですよ。
で、「示談金払って、今ここに100万ある!」って札束見せる。そりゃあ竹山さん、もう血が騒ぐ。「俺も俺も!」ってね。あの時の「俺も俺も!」って勢い、芸人が笑いを取る瞬間より速かったらしいですよ。
で、数社回って借金しまくる。金なんて「売れりゃ返せる」。いや、この考え方がすでに芸人より詐欺師に近い。でも本人は「これが芸人だ! 最高じゃねぇか!」って、うれしそうに焼き肉食って、タクシー乗って、後輩におごって、パチンコ行く。完全に芸事じゃなくて借金返済のための経済活動です。
でね、ここで一番怖いのは、自転車操業が始まるってやつですよ。返すために借りる、借りるために嘘をつく、嘘をつくために芸が立つ。いや、立ってどうするんだよって話ですけども。
そんで、実家や当時の彼女――今の奥さんになる人にも金の無心。家賃や光熱費は滞納。部屋には借金取りが来る。もうね、ドア叩く音が「お前売れたか?」って聞いてるように聞こえる。で、売れてないから開けられない。
結局、先輩や友人の家に逃げ込む。で、芸事に身が入らない。そりゃそうですよ、ネタより借金の利息のほうが毎日増えてくんだから。で、「借金がなくなるなら犯罪してもいいんじゃねぇか」って思い始める。この思考、芸人ってよりもう反社の入り口ですよ。
でもね、ここからが面白い。竹山さん、この経験を笑いに変えたんですよ。普通だったら「人生詰んだ」で終わるところを、「これが芸人だ!」で締めた。いや、これってある意味、借金取りにネタ料払ってもらってるようなもんですよ。利息=授業料。高ぇ授業料だけど。
で、これを聞いてた年寄りの芸人が言うんです。「昔の芸人はな、借金してナンボ。売れたら返せばいい。でも今の世の中、売れる前にSNSで炎上して干されるから、借金する暇もない」ってね。そう考えると、竹山さんはまだ幸せだったのかもしれない。炎上より借金のほうが、まだ返すチャンスはある。
で、オチとしてはこうです。借金まみれの竹山さん、ある日ついに売れる。借金も返した。で、今度は後輩に説教する。「借金なんてするもんじゃないぞ」って。でも心のどっかで思ってる。「お前も一回ぐらい借りてみろ。ネタになるから」ってね。
結局、芸人にとって借金は、落語家にとっての人情噺みたいなもんですよ。やらないとわからない。でもできれば、やらないほうがいい。
おあとがよろしいようで
2幕目
「借金指南役」
えー、世の中には色んな学校がございますけどね、大学だとか専門学校とか…あれは勉強するための学校。でも人生にはもうひとつ、行かなくても勝手に入学させられる学校がありましてね。「借金学校」ってやつ。授業料は利子で、卒業試験は返済。で、留年すると督促状が送られてくるっていうね。
で、この「借金学校」には先輩後輩の人間関係もある。
先輩が後輩に金を貸すと、「恩義」という名の鎖で繋がれる。後輩が先輩に借りると、「返済」という名の拷問を受ける。どっちも笑えない。
この間、とろサーモンの久保田って芸人がテレビで言ってましてね。「借金は一番信用してる先輩から借りる」って。これ、なかなかの哲学ですよ。「銀行やカード会社は信用してないけど、麒麟の川島は信用する」…お前、それ動物占いか何かか?
で、聞いてみると、下積み時代に借金してたんだって。だけど返せたのはM-1優勝してから。つまり、借金返済には賞レース優勝が必要条件。そりゃあ普通のサラリーマンには無理だよ。「部長賞」をもらったぐらいじゃ消費者金融は笑ってくれない。
久保田が言うには、後輩からは絶対借りない、と。理由は「負の連鎖になるから」。まぁ確かにそうだ。後輩から借りたら、後輩はもっと下の後輩から借りる…最終的に、芸能界のピラミッドが逆さになって、てっぺんの大御所がアルバイトしてるっていうカオスになる。
で、「後輩から借りてるヤツ、全員俺のところ来い。貸さんけど説教する」って言ってたけど、これが一番借金っぽい話でね。つまり「金は貸さないけど時間を奪う」…人の時間も、ある意味で通貨ですからね。しかも説教は利子が高い。
考えてみれば、金を借りるっていうのは、現代版の「人質」ですよ。昔は戦国時代に城を守るために人質を送った。今は生活を守るために信用を送る。だけど人質にされた信用って、逃げようがない。あの川島さんとか哲夫さんも、まさか自分が借金ドラマの登場人物にされるとは思ってなかったでしょうよ。
しかも久保田が選んだ「一番信用してる人」ってのがね、また皮肉で。信用ってのは本来「返さなくても許してくれる」人に対して芽生えるもんじゃないのか? 「絶対返さなきゃいけない」っていうのは信用じゃなくて義務だよ。信用っていうより、もう借金の質草みたいなもんでね。
私が思うに、借金ってのは二種類あるんですよ。
ひとつは「返すために働く借金」。もうひとつは「借りたことで働く気がなくなる借金」。で、芸人がやるのは大体後者。だって借金の額が大きすぎると、もはや返すことよりネタにする方が先になる。「この借金、あとで笑いにできるな」って思った時点で、返済計画はギャグに負けてる。
借金を返すためにM-1で優勝…これはね、例えるなら「交通違反の罰金を払うためにオリンピックで金メダルを取る」ようなもんですよ。そりゃ可能だけど、普通の人には無理。だから結局みんな、優勝どころか予選落ちでサラ金の看板の下に立つことになる。
借金っていうのはね、「数字の幽霊」みたいなもんで。返済しても返済しても、利子という名前で生き返る。久保田さんも、芸人として成功した今だから笑って話せるけど、当時は幽霊に首を絞められてる気分だったろう。幽霊は金貸しより優しいって言うからね、利子は取らない。
で、これを聞いてね、「俺も先輩から借りれば良かった」って思う人、いるかもしれないけど…やめなさい。先輩は銀行と違って、催促がライブ付きだから。しかもそのライブはあなたの耳元で毎日行われる。「この間の五千円、まだ?」っていう短いワンマンショーが。
結局、借金の極意ってのはこうですよ。「返せる額だけ借りろ」。でもこれができる人はそもそも借金しないんだ。だから借金学校は永久に廃校にならない。校長先生は金融業者で、教頭は先輩芸人。卒業生はみんな、返済証明書を持ってるけど、額に「二度と借りません」って書いてある。
…で、私? 私はね、金は貸さないけど、話ならいくらでも貸す。利子は笑いで払ってもらう。それが一番、健全な取引ってもんですよ。
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