裏切りの友情 〜若者の間で蔓延する仮想通貨詐欺〜

【第5期毎日ビデオジャーナリズムラボ 応募作品】

ホオズキには、二つの花言葉がある。
一つは祝い、そしてもう一つは裏切りだ。
僕の周りでは、仮想通貨のねずみ講が横行していた。

甘い誘いを仲の良い知人にする事で信じ込ませる卑劣な手口。
若者の間で急増している仮想通貨詐欺の実態を追った。

きっかけは、友人からの突然のラインだった。
「久しぶり!」
「お前にいいビジネスの話がある!」

鈴木恭介(仮名)。僕の中学からの親友の一人だ。彼は千葉県の大学に進学。スーパーと塾のアルバイトを掛け持ちし、大学とバイト、家を往復する毎日に嫌気がさしたという。そんなある日、友人からある人を紹介して貰った。市橋という男だ。
喫茶店で、恭介は市橋から仮想通貨の投資を利用したビジネスを勧められた。
「月8〜20%の利益を受け取れる」「この時代に会社員として一生社会の駒として働くのか」市橋は巧みな言葉を使い、純粋な恭介を見事に騙した。すぐに、消費者金融から11万円を借りたというが、
投資では利益を回収できなかった。

そこで手を出したのが、ネットワークビジネス。これは、損をする仮想通貨サービスを友人に利益があるかのように嘘をついて勧め、紹介料で利益を回収するしくみだ。末端の会員は利益率が低いため、新規会員数を増やして紹介料を得ようと勧誘を展開。結果、さらに被害者が増えていく。利益を回収できるのはピラミッドの上位のみ。事実上の”ねずみ講”だ。
恭介は、友人50人以上に勧誘。
被害者から加害者になった。

今回、別の友人を通じて同じように市橋に勧誘された人に会うことが出来た。名前は米原悠太。彼は専門学校に通う、20歳(はたち)の学生だ。市橋に会ってまず始めに聞かれたのは年齢だった。

これは、消費者金融が、成人していれば保護者の同意無しでも借りることが出来るためだ。
・純粋な性格
・仮想通貨という”未知の領域”
・社会経験不足。学生は、騙すには格好の獲物だ。
政府は、令和4年(2022年)4月より18歳を成人とする事を決めている。施行された場合、18歳になったばかりの高校3年生にカネを貸す業者が出てくる恐れもあり、被害の拡大が懸念されている。

悠太は幸い誘いを断れたものの、友人に対し失望していた。

「紹介しないとお金貰えないってことじゃん。だからそいつも紹介するのに必死だったんじゃないかな。

【8月下旬】
日本一の歓楽街として知られる新宿・歌舞伎町。どうやら市橋は、この街を拠点に勧誘をしているらしい。僕は、「仮想通貨に興味を持っている」と嘘をつき、歌舞伎町で市橋と接触することに成功した。
会えた。市橋だ。

彼は都内の大学に通う4年生。大学進学を境に上京した。芸能事務所にも登録し、人脈を広げ、ビジネスと謳う仮想通貨の勧誘に手を染めた。彼もまた、実は被害者でもあるのかもしれない。

「諦める方が悪い」。市橋は最後までこの主張を繰り返した。

急速に拡大している仮想通貨詐欺。実際、国民生活センターの相談窓口に寄せられる(仮想通貨トラブルの)相談数は年々増加している。
この現状に対し職員は警鐘を鳴らす。

《仮想通貨に関する相談件数》
2016年 634件
2015年 440件
2014年 194件
出典:国民生活センター

人の信頼を利用した詐欺ほど卑劣なものは無い。恭介は、今もまだ勧誘を続けている。そして、一人、また一人と彼の側から離れていく。
目先の金にくらんだ者に突きつけられた現実は、あまりにも残酷だった。

【協力・スペシャルサンクス】
毎日ビデオジャーナリズムラボ

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